NBA が推進するトラッキングデータを活用した革新的な視聴体験:スポーツにおけるデータ活用 ⑤
NBA の世界的人気
NBA は母国アメリカだけにとどまらず、世界中で人気のスポーツです。2023 年の調査によると、アメリカのインターネットを利用する成人の 23%が NBA を観戦していると回答し、バスケットボールファン全体の 79%が NBA の試合を観戦しています。それに対し中国では、インターネットを利用する成人の 52%が NBA の試合を観戦しており、これはバスケットボールファン全体の 90%に相当します。
NBA はこれらの視聴者に対して、ファンエンゲージメント向上のためにトラッキングデータを活用し革新的な視聴体験を提供しています。
Global NBA basketball viewers, 2024 より引用
トラッキングデータ取得におけるバスケットボールの優位性
バスケットボールのトラッキングデータの取得が、サッカーや野球と比べて容易であることは、スポーツの特性や環境条件に深く関わっています。
小規模なフィールド
バスケットボールのコートは 15 メートル ×28 メートルと比較的小さく、このコンパクトなスペースはカメラやセンサーの設置を容易にし、効率的なトラッキングを可能にします。一方で、サッカーや野球のフィールドは広大であり、全フィールドをカバーするためには多くのカメラや高解像度のセンサーが必要となります。
連続的なアクション
バスケットボールは試合中に絶え間ない動きがあり、プレイヤーの動きやボールの動きを連続的に追跡するのが容易です。これに対して、野球はプレイの間に長い待ち時間があり、サッカーはプレイのパターンがより変動的であるため、連続したデータ取得が難しい場合があります。
屋内競技
バスケットボールは主に屋内で行われるため、照明や天候の影響を受けにくいです。一定した環境条件下でのトラッキングは、データの精度と一貫性を高めます。これに対して、サッカーや野球は屋外で行われることが多く、天候や照明の変動がデータの一貫性に影響を与える可能性があります。
以上のように NBA は、トラッキングデータ取得において優位性を持っているため、膨大、多様、正確なデータを取得できます。この豊富なデータを活用して、NBA は様々な施策を打ち出し、ファンエンゲージメントを高めることが可能なのです。
革新的な視聴体験
ハイライト映像へのデータ可視化
Second Spectrum は 2013 年に設立された、トラッキング、分析、データ視覚化サービスを提供する、世界有数の完全統合型スポーツ AI プロバイダーです。設立以来、Second Spectrum は技術の革新とスポーツデータの新しい可能性を追求し続けており、現在では NBA の公式分析プロバイダーに任命されるまでに成長しました。
Second Spectrum のサービスは、NBA チームとそのファンの双方にとって革新的なものです。
同社は、コート上の選手の動きをリアルタイムでトラッキングし、そのデータを基に詳細な分析を行います。これにより、コーチや選手は試合戦略の改善やパフォーマンスの向上に役立つ深い洞察を得ることができます。
一方、ファンに対しては、トラッキングデータを基にしたハイライト映像やインタラクティブな視覚化コンテンツを提供しています。例えば、試合中の重要な瞬間をデータ視覚化技術を駆使して再現します。これにより、視聴者は選手の動きやボールの軌道などを詳細に見ることができ、試合の戦術や選手のパフォーマンスをより深く理解することができます。
ライブ映像へのデータ可視化
Second Spectrum は、2021 年にスポーツとメディアを結びつけるエコシステムを推進するGeniu Sports によって買収されました。
この買収により、Genius Sports のストリーミング機能と、Second Spectrum のトラッキング、分析、データ視覚化ソリューションが組み合わされ、Genius Sports のスポーツとメディアの融合が加速しました。
その取り組みの一環として、Portland Trail Blazers のライブ映像では、Genius Sports の Second Spectrum テクノロジーを活用したデータ可視化が行われています。選手のシュート確率や試合ごとのタッチ数、守備への影響など、リアルタイムでの詳細な統計情報を視聴者に提供します。これらのデータは、試合中の各プレイをコート上に表示されるグラフィックに分解し、視聴体験を向上させます。
Portland Trail Blazers の EVP 兼最高マーケティング責任者であるケビン・キングホーンは、「Genius Sports と提携して地元放送を NextGen 分野に拡大したことは大きな成功でした」と述べ、視聴体験の向上を強調しています。
Genius Sports transforms Trail Blazer broadcasts with Second Spectrum player tracking technology より引用
Sony の Hawk-Eye と NBA
NBA は 2023 年に、スポーツ連載第二回でも紹介した Sony の Hawk-Eye と提携を結び、次世代のトラッキング技術を導入することを発表しました。この新技術は、Hawk-Eye の 3D 光学追跡技術を活用し、試合のリアルタイムな 3D データを提供し、審判の判定の精度向上やゲームスピードの向上に寄与すると期待されています。
このパートナーシップは、ファンエンゲージメントを大幅に向上させる可能性があります。Hawk-Eye の「ポーズデータ」キャプチャ技術により、選手とボールの動きをリアルタイムで 3D でトラッキングし、視覚的に表現することができます。これにより、ファンは試合中の動きをより詳細に理解し、視覚的に楽しむことができます。
さらに、この技術は NBA と Sony のスポーツビジネス部門との間での協力機会を生み出し、バーチャルゲームの再現、ダイナミックな視覚化、ユニークなコンテンツの開発、そしてゲーム化の分野で新しいアプローチを提供することに繋がる可能性があります。
Morph がスポーツのデータ活用に対して注目している理由
Morph は、渋谷から J リーグを目指すフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」と、アスリートデータの活用を共同推進しています。
近年、ビジネスの分野だけでなく、スポーツの分野でもデータ活用がますますトレンドとなり、一般的な概念として浸透しています。アスリートデータを収集するデバイスの進化は目覚ましく、トラッキングシステムやバイオメカニクスセンサーの技術向上により、収集できるデータの量や種類はますます膨大になっています。
しかし、アスリートデータを収集する側のデバイスに比べて、そのデータを効果的に活用するためのソフトウェアはまだまだ発展途上であり、取り組みにおいても余地があります。
この中で、Morphは柔軟なデータ活用を可能にするツールであり、収集と活用のギャップを埋めるソフトウェアとして存分に効果を発揮できると考えています。