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MLB のデータドリブンなマーケティング戦略:スポーツにおけるデータ活用 ③

2024-06-21
大道 元貴
大道 元貴
セールスデベロッパー

MLB の潤沢な資金の源泉

“大谷翔平、ドジャースと 10 年総額 7 億ドル日本円にして約 1015 億円の超大型契約を締結”

今年の春先、日本にビッグニュースが飛び込んできました。マイク・トラウト、ムーキー・ベッツ、アーロン・ジャッジなどの超一流選手達を凌ぎ MLB 史上最高額、北米 4 大スポーツを含めても過去最高額の契約金額となりました。このニュースは大谷翔平の能力に対する期待の高さだけでなく、MLB 市場の資金の潤沢さにも注目を集めました。

MLB のチームはこの潤沢な資金をどのようにして生み出しているのでしょうか。その背景には、データの活用が隠されています。

スポーツにおけるデータ活用の連載、第 3 回目の今回は、MLB のチームがデータをいかにして活用し、売り上げに繋げているのかをみていきます。

チケッティングの重要性

MLB のチームは年間 81 試合ホームゲームを行うことができます。これは北米 4 大スポーツ(MLB、NBA、NFL、NHL)の中でも特に多い試合数です。以下の図は、各スポーツリーグの年間ホームゲーム数を比較したものです。

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この試合数の多さから、MLB の売り上げに占めるチケッティングの割合は約 3 分の 1に上ります。つまり、チケット収入が球団の利益の多くを占めるのです。このことから、MLB のチームは、ファンに対して球場の内外で見に行きたいまた見に行きたいと思えるようなファン体験を提供することは売り上げに直接的に影響する非常に重要な要素なのです。

チケッティングの成功は、単に試合を見るだけでなく、ファンが球場で過ごす時間全体の質に大きく依存します。チームはデータを活用して、ファンの行動や好みを把握し、よりパーソナライズされた体験を提供することが求められます。

ファン体験を向上させることを目的としたチームの取り組みを見ていきましょう。

徹底したデータ活用:テキサス・レンジャーズ

データドリブンな価格設定と収益最大化

テキサス・レンジャーズは、Tableau を導入してデータ分析に基づく価格設定を行い、収益を最大化しています。このシステムにより、従業員の**92%**がデータに基づいた意思決定を行えるようになりました。

試合のフィールドパフォーマンス、前シーズンのチケット販売データ、競合チームの価格設定など、多岐にわたるデータポイントを分析し、最適なチケット価格を提案します。このアプローチにより、価格が適正に設定され、ファンにとっても購入しやすい価格帯が維持されるため、安定した収入が確保されます。さらに、リアルタイムのデータ更新により、試合ごとに価格設定の調整が可能となり、需要に即した柔軟なチケット販売が実現しています。

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Gate receipts of the Texas Rangers from 2009 to 2024 より引用

リアルタイムデータによるファン体験向上

試合当日の運営では、入場ゲートデータをリアルタイムで表示し、混雑を避けるための迅速な対応を行っています。例えば、ファンがスタジアムに入場する際、Tableau を使用して 5 つのゲートからの入場人数をリアルタイムで追跡し、混雑するゲートにはスタッフを増員するなどの対応が可能です。特にボブルヘッドや T シャツの配布時には、混雑するゲートに景品を再割り当てすることで、ファンの体験を最大限に高めています。

また、Tableau と Salesforce Service Cloud の統合により、ファンからの質問や懸念に迅速かつ正確に対応できるようになりました。よく寄せられる質問をデータで可視化し、スタジアムの標識や案内表示を改善することで、ファンの利便性が向上しています。

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Every Real Texas Rangers Fan Knows These 9 Things より引用

ブランドキャンペーンと AI の活用

テキサス・レンジャーズは、ソーシャルメディアでのエンゲージメント率を Tableau で監視し、パフォーマンスを継続的に向上させています。性別、年齢、民族、婚姻状況などのデモグラフィックデータを詳細に分析し、ターゲット層に最も効果的なキャンペーンを展開します。例えば、若年層向けにはソーシャルメディアを活用したインタラクティブなコンテンツを提供し、年齢層の高いファンにはニュースレターやイベント招待状を送るなど、パーソナライズされたアプローチを採用しています。

さらに、AI と Tableau AI を活用することで、ファン体験をさらに向上させるための新たな洞察を得ています。AI による予測分析により、試合当日のファンの動向や行動パターンを予測し、スタジアム内の混雑状況やサービス提供の最適化を図っています。これにより、ファンとのコミュニケーションとスタジアム体験が向上し、ファンの満足度が高まります。

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DialSource: Texas Rangers Customer SpotlightTexas Rangers’ data strategy hits a home run with fans より引用

データは秘密兵器:サンフランシスコ・ジャイアンツ

データドリブンなファンエンゲージメント

サンフランシスコ・ジャイアンツは、データ分析を駆使してファン体験を向上させ、球場への集客を最大化しています。球団の CIO である Bill Schlough 氏は、長いレギュラーシーズンを通じてファンを惹きつけるためにはデータインサイトが不可欠だと述べています。これにより、ジャイアンツはシーズン中の 81 試合のホームゲームでスタンドを満席にするための新たな取り組みを行っています。

具体的には、機械学習と AIを活用して、どのチケット製品がファンにとって魅力的かを予測分析し、マーケティング戦略を最適化しています。ソーシャルメディア、CRM、POS、購入履歴などの多様なデータソースを組み合わせることで、ファンにカスタマイズされた体験を提供します。ボブルヘッドや T シャツのプレゼントなどの従来のプロモーションに加え、食事や特別なイベントの招待など、よりパーソナライズされたサービスを提供しています。これにより、ファンのエンゲージメントを高め、球場への来場を促進しています。

「The 415」の導入

若いファンを球場に引き付けるため、ジャイアンツは「The 415」というメンバーシップを導入しました。このメンバーシップは、サンフランシスコの市外局番にちなんで名付けられ、定額料金で若いファンが楽しめる外野席「The 415 Bullpen Terrace」を提供しています。メンバーには、割引チケット、特別割引の食べ物や飲み物、メンバー限定のイベントへの招待などの特典が付与されます。

「The 415」の目的は単なる収益向上ではなく、将来的なファン層を築くことにあります。若いファンにとって魅力的な価格帯と体験を提供することで、次世代の野球ファンを育成しています。さらに、データ分析を活用することで、ファンの行動パターンフィードバックを把握し、より魅力的なプロモーションや体験を提供することが可能になっています。ジャイアンツは、家族全員を球場に呼び込むためのクリエイティブな景品やイベントを通じて、ファン層の拡大を目指しています。

Bill Schlough 氏は、「データは私たちの秘密兵器です。データを活用して、ファン体験を進化させ、球場をより魅力的な場所にする方法を見つけています」と述べています。ジャイアンツはデータドリブンなアプローチで、ファンとのエンゲージメントを強化し、球場への来場を最大化する戦略を実現しています。

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How the SF Giants Create a Winning Fan Experience with Data より引用

スポーツチームにとってのデータ活用とは

スポーツのデータ活用に関する連載として、これまでに次のようなトピックを取り上げてきました。第 1 回では、スペインサッカーリーグ LaLiga が競技データをファンに公開する理由を掘り下げました。第 2 回では、Hawk-eye、Google、Databricks など、MLB のデータ活用を支えるテクノロジー企業に焦点を当て、競技データがファン体験を高める方法について詳述しました。

過去 2 回は、競技データ利用に関する話題でしたが、今回はマーケティングに特化したデータ活用について取り上げました。これが意図するところは、トラッキングシステムが取得する競技データだけでなく、マーケティングデータの量も膨大になっているためです。それぞれのデータの活用の仕方は異なる場合があり、または掛け合わせる必要があるため、スポーツチームは目的に応じてデータの扱い方を適切に変える必要があります。多種多様かつ膨大なデータに最大の価値をもたらすためには、どこでどのようにデータを扱うか非常に重要です。

特に球場に来ている人、すなわち来場者に関わるデータは、非常に鮮度の高いものです。そのため、これらのデータを迅速に扱える環境が求められます。リアルタイムでデータを収集し、分析し、活用することによって、ファンのニーズに迅速に対応し、より良い体験を提供することが可能になります。

リアルタイム性を重視したデータ活用は、ファンの満足度を高め、球場へのリピーターを増やすための鍵となります。これにより、スポーツチームはファンのエンゲージメントを強化し、収益を最大化することができるのです。

Morph がスポーツのデータ活用に対して注目している理由

Morph は、渋谷から J リーグを目指すフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」と、アスリートデータの活用を共同推進しています。

近年、ビジネスの分野だけでなく、スポーツの分野でもデータ活用がますますトレンドとなり、一般的な概念として浸透しています。アスリートデータを収集するデバイスの進化は目覚ましく、トラッキングシステムやバイオメカニクスセンサーの技術向上により、収集できるデータの量や種類はますます膨大になっています。

しかし、アスリートデータを収集する側のデバイスに比べて、そのデータを効果的に活用するためのソフトウェアはまだまだ発展途上であり、取り組みにおいても余地があります。

この中で、Morph柔軟なデータ活用を可能にするツールであり、収集と活用のギャップを埋めるソフトウェアとして存分に効果を発揮できると考えています。

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